DX時代の業務マネジメントフレームワーク「ブースト」
はじめに
現代の変化が激しいビジネス環境において企業が競争力を確立して成長するためには、変化に適切・迅速に対応できる力が求められています。本記事では、組織に人材(スキル・マインド)と仕組みを備えることができる業務マネジメントフレームワーク「ブースト」について紹介します。
現代のビジネス環境
現代のビジネス環境は、以下の4つの特徴を持つ「VUCA時代」であると言われています。
- 変動性(Volatility): 市場の動向が予測しづらく、急激な変化が頻発する。
- 不確実性(Uncertainty): 未来の出来事や結果が不確実であり、確かな予測が難しい。
- 複雑性(Complexity): 様々な要因が絡み合い、問題の因果関係が複雑化している。
- 曖昧性(Ambiguity): 解釈が一義的でなく、明確な結論を出しにくい。
このような環境では、企業は適切な価値を迅速に創出するための「アジリティ(Agility)」を高めることが重要です。
生産性向上の重要性
アジリティを高めるためには、高い生産性を備えた組織が求められます。生産性とは限られたリソースで最大の価値を生み出すことです。より少ない人数でより多くの付加価値を生むことで生産性が最大化されます。
生産性の最大化を実現するためには、定型業務の効率化が不可欠です。業務の効率化によって浮いたリソースを付加価値創出に集中させることができ、顧客価値提供や能率向上、リードタイム短縮などの活動に充てることができます。
生産性向上を実現するための全体像
生産性向上を実現するためには、単に定型業務を効率化するだけではなく、組織力の向上を目指す必要があります。以下は、実現に向けた全体像となり、本セクションで解説していきます。
1. 顧客価値の創出
生産性向上には、顧客への価値の創出が欠かせません。具体的には、以下の方法が有効です。
- デザイン思考: 顧客視点に立ち、真に求められるソリューションを創出。
- リーンスタートアップ: 無駄を排除しながら顧客ニーズに応じた製品やサービスを迅速に提供。
- アジャイル開発: 柔軟なプロセスで顧客満足度を高める。
これらの手法をサービス・プロダクトの状況に応じて組み合わせながら活用することで、効果的に付加価値を生み出して売上に貢献していきます。この詳細は別記事で解説していきます。
2. 業務マネジメント
業務マネジメントは生産性向上を実現するための鍵となります。これには、次の取り組みが含まれます。
- 業務改善: 既存の業務におけるムダ・ムリ・ムラを取り除き、効率的な業務のやり方に整理整頓していく取り組みです。
- BPR(業務プロセス再構築): 既存の業務プロセスを根本的に見直し、ITシステム導入や自動化などの仕組みを構築していきます。
- タスクマネジメント: 日々発生するタスクを適切に実行していくためには仕組み化が欠かせません。
これらの取り組みによって、業務管理とタスク推進が最適化され、高品質・低コスト・高スピードな事業運営が可能となります。こちらの詳細は後ほど解説していきます。
導入の効果
生産性向上の全体像を理解し、適切に実行することで組織力が強化され、以下のような効果が期待できます。
- 売上向上: 顧客に対する付加価値提供が強化され、収益性が向上。
- 利益向上: 業務の効率化によりコストが削減され、利益率が改善。
- 組織力の向上: 持続的な成長を可能にする強い基盤を構築。
- サービス/プロダクト
- 顧客に対して提供する付加価値創出活動による成果物です。顧客体験を作り出す事業の原点です。
- 業務プロセス
- 事業運営していくためのプロセスです。
- システム
- 組織に導入されている仕組み(ITシステム含む)です。
- ナレッジ
- 組織内のノウハウや成功事例が蓄積されたものです。
- 組織
- 最適な組織体制や人材配置です。
- 人材
- 付加価値創出と業務を実行するスキルを持った人材です。
- サービス/プロダクト
この全体像を意識し、具体的な取り組みを進めることで、持続可能な組織の成長が可能になります。
DXの位置づけ
加えて、VUCA×デジタル時代の生産性向上には、デジタルトランスフォーメーション(DX)化が不可欠であり、その実現にはデジタル活用が当たり前にできる組織への変革が課題となります。生産性向上の活動を通じて、デジタルが当たり前な考え方が備わっていきます。
業務マネジメントの課題と解決策
前述の生産性向上を実現するための全体像のうち、業務マネジメントの最適化は後回しになりがちです。当然、売上を作るところからはじまりますが、ある程度事業が軌道に乗っている組織であれば、業務マネジメントをおろそかにしていると様々な問題が発生していきます。
あなたの組織はこんな問題を抱えていませんか?
- 業務推進
- 新規事業や商品開発に使えるリソースが少ない
- タスクの優先順位や組織の業務を把握していない
- チームのタスクやスキルを適切にマネジメントできていない
- システム開発がベンダー丸投げで受発注の関係にある
- 従業員エンゲージメント
- 人材育成やスキル向上の機会が不足している
- 組織間のコミュニケーションや連携がうまく取れていない
- ムダに感じる業務をやらされている
- 残業が多い
これらは、業務が適切にマネジメントされていない状態が原因です。近年、顧客行動などの可視化を通じたデータドリブンによる顧客価値の創出がビジネスの主流となっています。一方で、業務の内容や状況は担当者以外に分からず、適切にマネジメントされているとは言えない企業が多い状況です。
- どのような業務がある?
- どのようなプロセス?
- どのような目的?
- このアウトプット作成のやり方は?
- どこの組織の責務?
- どのくらい発生している?
- どのくらいで終わる?
- どのようなタスクがある?
- どのくらいのコストがかかっている?
- エラーや手戻りはある?
- 今誰がボールを持っている?
こうした問題を解決するために、業務マネジメントの組織浸透が課題となります。そこで本サイトでは、生産性向上ができる強い組織作りに貢献する「ブースト」という業務マネジメントフレームワークを開発しました。
ブーストの基本と管理情報
ブーストは、業務とタスクの「可視化」「分析」「改善」のサイクルを回す活動を行います。その中で、ブースト活動を支える4つの管理情報を定義しています。
- 業務・タスク: 定期的な業務と日々のタスクを明確にし、チーム全体で共有する。
- イベント: タスク確認会や振り返りなど、業務の進捗や課題を共有するための場。
- マインドセット: チーム全員が同じ意識を持ち、改善に前向きに取り組むための考え方。
- 役割: 各メンバーの役割を明確化し、責任分担を適切に行う。
これらの管理情報に基づいて、組織全体で効率的な業務マネジメントが実現されます。
管理情報:①業務・タスク
業務とタスクの管理は、ブースト活動の基盤となります。組織内で実施される業務を細分化し、どのメンバーが何を行うのかを可視化することで、属人化を防ぎ、業務の透明性を高めます。
具体的には、業務を可視化した業務体系・業務マニュアル、それらの改善を円滑に実行していくための改善プラン、人材の最適な役割分担と育成に向けたスキルマップ、日々発生するタスクの優先順位やステータスを一目で確認できるタスク、これらを管理していくことで組織の業務状態を可視化します。
以下の図に例を示します。
その他、改善を考えるヒントには、以下の改善の8原則の記事が役立ちます。この改善活動を通じてDXの基礎となるデジタライゼーションできる人材育成に繋がります。そのような人材から、ビジネスモデルや提供価値の変革ができるキーマンが発掘されるでしょう。
管理情報:②イベント
ブースト活動を円滑に進めるためには、定期的なイベントが不可欠です。
- タスク確認会(週1回): チーム全体でタスクの優先順位を確認し、業務の進行を整理する場。
- 朝会(毎日): 各メンバーが日々の進捗を共有し、チームの認識を合わせる短時間のミーティング。
- 成果共有会(週1回): 完了したタスクの成果を共有し、次のステップへとつなげるための場。
- 振り返り(週1回): 業務プロセスやチームの取り組みを振り返り、継続的な改善を図る機会。
- チーム横断成果共有会(月1回): 複数チームで成果を共有し、他のチームの知見を学ぶ場。
これらのイベントは、チームが一丸となり、継続的な成長を支援する役割を果たします。
管理情報:③マインドセット
ブースト活動を成功させるためには、チーム全員が共通のマインドセットを持つことが重要です。以下の3つのマインドセットをチーム全体で意識することで、前向きな改善文化が醸成されます。
- 見て決める!
空中で議論するのではなく、データやドキュメントを基に意思決定を行うことで、業務ノウハウの蓄積を進めます。 - フィードバックは前向きに!
正論で詰めるのではなく、建設的なフィードバックを通じてチームの心理的安全性を確保し、成長を支援します。 - 失敗は未来へのステップ!
過去の失敗を責めるのではなく、振り返りを通じて自分で気づきを得る場を提供し、オーナーシップを育みます。
これらのマインドセットにより、チーム内での信頼関係が深まり、より活発な活動が促進され、心理的安全性が高まります。
管理情報:④役割
ブースト活動を組織に展開していくためには、適切な役割を割り当てていくことが重要です。以下の役割がブースト活動において必要となります。
- ブースト推進チーム
- チームオーナー: タスクの改善に関する意思決定を行い、他チームとの調整を担当します。
- ブーストマスター: チームにブーストのルールを浸透させ、メンバーの活動をサポートします。
- チームメンバー: 各自のタスクを実行し、業務基盤情報の作成を担当します。
- ブーストマネジメントチーム
- ブーストマネージャー: ブースト推進の戦略を策定し、実行支援を行います。
- ブーストコーチ: ブーストチームやブーストマスターへのコーチングを行い、活動全般をサポートします。
それぞれの役割が明確に定義されることで、業務効率化がスムーズに進み、組織全体のパフォーマンスが向上します。
ブースターベースの導入ステップとフェーズ
ブースト活動を組織に導入する際には、段階的に進めることで、円滑な定着と継続的な改善が可能になります。以下では、導入のステップと各フェーズの概要を紹介します。
1. トライアルフェーズ(1チーム+事務局)
最初のステップでは、スモールスタートとして1つのチームを対象に試験導入を行います。このフェーズでは、以下を目的とします。
- 業務の可視化: 業務体系やタスクの整理を行い、現状の課題を明確化。
- 改善プランの試行: 改善施策を立案し、チーム内で実行して効果を確認。
期間目安: 3ヶ月
2. 各部門への展開フェーズ
トライアルで得たフィードバックを活用し、他の部門やチームへの展開を進めます。このフェーズでは、次のアクションを実施します。
- 改善方法の水平展開: トライアルで成功した方法を他チームにも共有。
- 業務基盤情報の標準化: 業務マニュアルやプロセス図を全体で活用できる形に整備。
期間目安: 3ヶ月
3. 定着化フェーズ
最後のフェーズでは、導入したブースト活動を組織全体で定着させ、持続可能な改善サイクルを構築します。
- スキルトランスファーの推進: 業務マニュアルを活用し、業務の属人化を排除。
- 継続的な振り返りと改善: 定期的に活動を評価し、さらなる改善案を策定。
期間目安: 継続的
導入ステップのポイント
導入を成功させるためのポイントは以下の3点です。
- スモールスタート: まずは小規模で試し、課題を最小化する。
- フィードバックの活用: トライアルの結果を分析し、次の展開に反映させる。
- 標準化と共有: 成果を全社的な取り組みとして水平展開する。
これにより、ブースト活動がスムーズに組織に浸透し、持続可能な形で成長を支える基盤が整います。
事例紹介:成功事例から学ぶブースト活動の効果
ブースト活動を実施した組織では大きな成果得られています。
これらの事例から分かるように、ブースト活動は業務効率化と人材育成を同時に進め、組織全体の生産性向上に寄与します。どのような業界でも適用可能な柔軟性を持つフレームワークです。
※ブーストとして標準化する前の筆者が参画したプロジェクトの成果です。
事例1:製造業(大企業)
この企業では、人員不足や業務量の逼迫により、毎年繁忙期に残業が多発していました。また、業務システムの開発が情シス部門に丸投げされており、業務の属人化が深刻でした。
導入後の成果:
- 業務効率化により、2年間で約40%の工数削減を達成。
- 開発要件定義にビジネス部門が参加することで、オーナーシップを向上。
- 業務マニュアルを活用したスキルトランスファーにより、ピークの平準化を実現。
事例2:土木建設業(中小企業)
この企業では、作業工程やプロセスの非効率性と、一部専門業務の後継者不足が課題でした。業務プロセスの透明性が欠けており、改善が求められていました。
導入後の成果:
- 業務プロセス図と業務マニュアルの作成により、透明性を確保。
- ムダ排除とBPRの実施で、主要業務のリードタイムを短縮。
- スキルトランスファーの実現により、後継者不足の課題を解消。
事例3:総合建設業(大企業 バックオフィス部門・支店)
この企業では、経理業務やその他の手作業が非効率であり、担当業務の属人化が大きな問題となっていました。
導入後の成果:
- 業務マニュアルによるスキルトランスファーを実現。
- 工数を約20%削減し、効率的な業務プロセスを構築。
- 担当者自らが業務プロセスを再設計し、新たなサービスを導入。
おわりに
現代のビジネス環境で持続的な成長を目指すためには、DXによる生産性向上が必要不可欠です。ブースト活動を通じて、業務の効率化と人材育成を両立させることで、企業はDXの時代にふさわしい組織へと変革することができます。そして本フレームワークも、社会の成長と成功の一助となるように益々進化させていきます。
また、こちらでPDF版を閲覧可能ですので簡易に確認したい方はご覧ください。
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